
1:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:13:07.50 ID:yULwdOga0.net
今、僕は三十二歳です。彼女はいません。でも、その三十二年間に恋はしました。
初恋も。
小学校三年の時でした。
小学校の二年生まで、僕は友達にも父母にも、まったく口をきかない少年でした。
話が、できない少年でした。そんな僕が、話をできる相手が一人だけいました。
2:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:13:50.06 ID:yULwdOga0.net
その女の子がしゃべりかけてくると、その時だけは、しゃべれるのです。その子が、
初恋の人でした。僕はその女の子としか、しゃべれなかったのです。ほかの子がしゃべりかけてき
ても、まったくしゃべれなかったのです。僕はその子としか、遊ぶことができませ
んでした。その子はみんなと仲よく遊んだり、しゃべったりしていたけれど。
僕はいつも、ひとりぼっちでした。みんなの輪の中には、入れなかったのです。
輪の中に入ろうとも思いませんでした。
3:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:14:22.02 ID:yULwdOga0.net
でも、みんなで、花いちもんめをする時だけは別でした。その初恋の子が、僕の
手をひっぱって、輪の中に入れてくれたからです。
終わりはいつもいっしょでした。僕一人だけ残って、「花いちもんめ、まきさんがほしい」
と、その子の名を言う。
「花いちもんめ、大西君はいらない」
それで終わりでした。
5:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:14:47.97 ID:yULwdOga0.net
でも、まきさんは、
「花いちもんめ、大西君がほしい」
と、僕の国語のノートに書いてくれていたのです。僕はそれからずーっと、まきさんのことが好きで好きでたまらなくなり、えんそ
くの時でも、まきさんのそばから離れなくなりました。ほかの子からは、
「大西君、女の子どうしでごはん食べているから、むこうに行って食べて」
と言われても、ぜったいにまきさんのそばから離れませんでした。
8:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:15:13.42 ID:yULwdOga0.net
それから、朝のちょうれいの時でも、本当は背の低い僕は前から二番目に立って
いなくてはいけないのですが、真ん中のほうへ行って、まきさんのよこに立ってい
ました。みんなから、「大西、いつからそんなに背が高くなってん」
と、背中とかつねられても、その場所から離れませんでした。先生にもおこられ
ましたが、次のちょうれいの時には、また、まきさんのよこに立っていました。
僕は本当に、まきさんのことが好きだったのです。
そして、長い夏休みに入りました。
9:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:15:36.29 ID:yULwdOga0.net
その夏休み、僕は何回か、まきさんの家をたずねました。でも、いつもみんな出
かけていて、だれもいませんでした。たまにおばちゃんが出てきて、「いなかに帰っているの」
と言ってくれるだけで、まきさんとは、夏休み中、会えなかったのです。
いよいよ夏休みも終わり新学期が始まる日、僕は母のけしょう水をふくにつけて
学校へ行きました。まきさんと会える、と思ったからです。
10:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:15:39.25 ID:hXZ2dooS0.net
13:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:16:09.97 ID:yULwdOga0.net
でも、まきさんは学校に来ていませんでした。
僕は、「明日は会える」「明日は会える」と思って、母のけしょう水をふくにつ
けて、学校へ行きました。
でも、まきさんは来ませんでした。*
夏休みは終わったのに、まきさんは学校には来ませんでした。
15:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:16:38.82 ID:yULwdOga0.net
そして九月十六日の朝のことでした。先生が、
「実は悲しいお知らせがあります。昨日、まきさんは病気のため、おなくなりにな
りました。みんな、目をとじて」
と言うのです。僕は、何の意味かわかりませんでした。先生に聞いたら、先生は、
「まきさんは死んでしまったのです」
と言うのです。僕は生まれてから、この時まで、知っている人が死ぬことがなか
ったので、人が死んでも、また会えるとばかり思ってました。
19:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:17:06.28 ID:yULwdOga0.net
みんなでおそう式に行くことになって、教室に集まっていると、まきさんが教室
の外のろうかのところに立って、僕を見て笑っているのです。僕が、「まきさん。まきさん」
とさけぶと、みんなから、
「きもちわるー」
と言われました。
おそらく、ゆうれいを見たのは、あの時が最初で最後だと思います。
20:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:17:33.40 ID:yULwdOga0.net
それから、みんなとそう式に行きました。それまで、そう式と言えばタダでおか
しをもらえるところだとばっかり思っていました。
でも、まきさんのそう式では、おかしをもらってもうれしくなかったし、食べよ
うと思ってものどに通らない。--まだ、会えるような気がしてたまらなかったの
です。
22:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:17:59.10 ID:yULwdOga0.net
そして次の日、学校に行くと、まきさんのつくえの上に花がかざってありました。
僕はみんなが帰ってから、一人だけのこって、まきさんのつくえにすわり、まき
さんが国語のノートに、「花いちもんめ、大西君がほしい」
と、書いていてくれたことを思い出してました。
そして次の日から、だれよりも早く教室に行って、花の水をかえて、いちど家に
帰って、それからみんなといっしょに登校することを始めました。
25:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:18:13.15 ID:knS1wnBnp.net
27:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:18:36.11 ID:yULwdOga0.net
僕はその日から、そのことがバレるのがこわくて、みんなにむりしてでもしゃべ
りかけるようになりました。それで、人としゃべれるようになったのです。
毎日、毎日、花の水をかえていました。
花がかれかかったら、自転単に乗ってしぎ山の下まで行って、ざっそうの色のき
れいなのを三本ほど抜いて、かびんに入れてやりました。クラスのみんなは、
「花がかってにふえている」
とか言うので、もしバレたらどうしようと思っていました。
28:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:18:59.61 ID:yULwdOga0.net
そうしたら、先生が、
「みんなが帰ったあと、先生が花をいけているのです」
と言ってくれたのでホッとしました。そしてクリスマスイブの日、先生にしょく員室によばれて、
「大西君がまきさんの花をいけていることは、だいぶん前からわかっていたのよ」
と言われたんです。
29:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:19:28.98 ID:yULwdOga0.net
僕は、はずかしくてたまりませんでした。先生は、
「この二学期で、つくえの上に花をかざるのはやめて、せきがえをしようと思って
いるの。いい? 大西君」
と言いました。僕は、首を、たてにふりました。
30:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:19:42.65 ID:yULwdOga0.net
二学期最後のせきがえをしたら、前にまきさんが使っていたつくえに、ぐうぜん、
僕がすわることになりました。
つくえの中を見ると、奥のほうにハンカチが残っていました。
おそらく、まきさんのハンカチだと思います。僕はそのハンカチを、小学校をそ
つぎょうする時まで、ずーっと持ってました。
31:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:19:53.58 ID:yULwdOga0.net
32:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:20:04.58 ID:yULwdOga0.net
12:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:15:54.31 ID:1TFxKzEfK.net
死が理解できなくて何回も居場所を聞いとったらしいな
33:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:20:17.41 ID:knS1wnBnp.net
34:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:20:29.30 ID:7JSGlqY10.net
36:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:20:49.14 ID:ntz/3+ku0.net
37:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:20:56.93 ID:GoYK26gv0.net
41:風吹けば名無し@\(^o^)/:2016/02/20(土) 21:21:35.26 ID:heErIv200.net



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