男「駐輪場で料金逃れしてる自転車をカチャることにした」

『2時間100円』

男「ここに自転車を止めるか」ｶﾁｬｯ

男（なるほど……ラックの奥まで自転車を止めると、ツメが閉じてタイヤをロックして）

男（その後、時間がカウントされ料金が加算されていくというわけか）

男（なかなかよくできたシステムだ……）

男「——ん？」

男（そうか……奥まで駐輪しないとツメが閉じないから）

男（時間がカウントされず、タダで止められるというわけか）

男（ん……？　これって不正駐輪じゃないのか？）

男「……許せないッ！！！」

ｶﾁｬｯ

男「……これでよし」

なんか気になる

男「料金を払うしかなくなる」

男「そして、きっと——」

利用者『あれぇ？　たしかにツメが閉じないように止めてたのにどうして！？』

利用者『くそう……100円払わないと……』

利用者『やっぱり悪いことってできないな……もうこんなことはやめよう！』

男「こんな感じで改心してくれるはずだ！」

男「よーし……片っぱしからカチャってやれ！」

ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ

男「今日はこの駐輪場の自転車をカチャろう！」ｶﾁｬｯ

男「今度はここだ！」ｶﾁｬｯ

男「かなりの重労働だけど……やりがいがあるなぁ」ｶﾁｬｯ

男「毎日、カチャるのは大変だけど……頑張るぞ！」ｶﾁｬｯ

ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ

〜駐輪場〜

男（あ、ここにもカチャってない自転車がある）

男（ちゃんと押し込んでやらないと）ｶﾁｬｯ

男「これでよし」

不良「おい」

不良「てめえ……今、そこにあるチャリをカチャってたよな？」

男「そうだけど……」

不良「なんのために？」

男「この自転車の持ち主に、ちゃんと料金を払わせるためだ」

不良「てめえ……！」

男（まさか……今カチャった自転車はこいつのだったのか！？）

男（まずい……っ！　やられるっ……！）

男「へ？」

男「てっきり怒るのかと……」

不良「んなわけねえだろ」

不良「俺はワルだけどよォ、タダで駐輪するみてえな卑怯なことは大嫌いなんだ」

不良「だからおめえみたいな奴……本当に尊敬するぜ！」

男「……ありがとう」

男「ん？」

不良「もしよかったら……俺も仲間に入れてくれねえか？」

不良「俺も……お前と一緒にカチャりてえんだ！　頼むっ！」

男「もちろんいいとも！」

不良「よぉーし、これからジャンジャン、タダ止めしてるチャリをカチャろーぜ！」

オーッ！

男「ここは見張りの人がいないから、こんな無法地帯になっちゃったんだろうね」

男「だけど……正していかなきゃ！　こういう小さなところから人間のモラルは崩壊していくんだ」

不良「そうだな！　諦めずカチャっていこうぜ！」

ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ　ｶﾁｬｯ

男「うん……」

不良「なんでそんなに落ち込んでんだ？」

男「だって、成果があったってことは、それだけ不正駐輪してる人が多いってことだからね」

男「それに、闇雲にカチャっても、ただ疲れるだけだし……」

不良「そうだな。なんか、もうちょい効率いい方法はねえかなあ」

不良「今日もはりきってカチャるぞ！」

男「うんっ！」

眼鏡娘「ちょっと、あなたたち」ｶﾀｶﾀｶﾀ

男「うん？」

不良「なんだてめえは！？」

男（ノートパソコンなんか持って……変な子だなぁ）

男「そうだけど」

不良「なんか文句あんのかよ！？」

眼鏡娘「ないわ」

眼鏡娘「それどころか、仲間に入れて欲しいのよ！」

男「え……？」

不良「どういうことだ？」

眼鏡娘「このデータを見て」ｶﾀｶﾀｯﾀｰﾝ

眼鏡娘「年間10兆円っていわれているの！」

男「なんだって！？」

不良「じゅ、10兆円！？」

眼鏡娘「だけど、あなたたちのカチャりのおかげで、少しずつ不正駐輪をしている人は減ってる」

眼鏡娘「とはいえ、まだまだ不正駐輪してる人が多いってのも実情よ」

眼鏡娘「というわけで、天才プログラマーの私がこんなもの作ってみたの」ｶﾀｶﾀｯﾀｰﾝｯ

眼鏡娘「ジャン！」

眼鏡娘「ちゃんとカチャってない自転車の位置を教えてくれるレーダーよ」

眼鏡娘「これを使えば、もっと効率的にカチャり運動ができるわよ！」

男「すごい！」

不良「おめー天才じゃねえのか！？」

眼鏡娘「フフッ、いったでしょ？　私は天才だって」

男「これがあれば、不正駐輪が多く行われてる地域が分かる！　効率的にカチャれる！」

男「よーし、レーダーを頼りに、ノー・カチャ駐輪を撲滅させよう！」

オーッ！

〜全日本駐輪場協会（JBPA）本部〜

会長「君たちのおかげで、ちゃんとカチャらない自転車がだいぶ減少した！」

会長「よって、君たちを名誉駐輪場利用者として、表彰する！」

ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ…

男「ありがとうございます！」

不良「へへっ、照れくさいぜ！」

眼鏡娘「私のレーダーが役に立ってよかったわ！」

〜不正駐輪連合アジト〜

総帥「おのれ！！！」

総帥「近頃、あの三匹のせいで、タダで自転車を止めにくくなってしまった」

総帥「まったくもって忌々しい奴らだ……」

総帥「このまま放っておけば、カチャをやらずに駐輪する文化が消えてなくなってしまう！」

部下「そ、そんな！」

部下「今さらノー・カチャ駐輪はやめられませんよ！　あれはヤミツキになります！」

総帥「うむ、ツメが閉じるか閉じないかのギリギリを見極めるスリルがたまらぬ」

総帥「こうなれば……我らの手で始末するしかあるまい。奴らをな！」

『1時間100円』

眼鏡娘「この駐輪場に一台、ちゃんとカチャってない自転車があるわ」ｶﾀｶﾀｯﾀｰﾝ

不良「ちっ、まだいるのかよ！　セコイ野郎だ！」

男「仕方ない、僕らの手でカチャってあげよう」

不良「そうだな」

男「これでよし、と」

不良「さ、次の駐輪場へ行こうぜ」

眼鏡娘「えーっと、次は北東にカチャってない自転車が……」

総帥「フハハハハハ……！　罠にかかったな、愚か者ども！」

ザザザッ……

総帥「≪不正駐輪連合≫の総帥だ」

男「不正駐輪連合って、ノー・カチャ駐輪を推進してる連中じゃないか！」

不良「ちっ、親玉のお出ましってか！」

総帥「その通り……ちなみに今お前たちがカチャった自転車は私のものだ」

総帥「私の自転車をオトリに、貴様らを捕えるという作戦はまんまと成功したわけだ！」

男「くっ……！」

眼鏡娘「私のせいだわ……私のレーダーがこの男の自転車に反応しちゃったから……！」

男「……君のせいじゃないよ」

眼鏡娘「え！？」

不良「ここで全員捕まったらオシマイだ！　お前は逃げんだよ！」

眼鏡娘「で、でもっ……！」

男「たまにはかっこつけさせてくれよ」

眼鏡娘「ご、ごめんなさいっ！」ﾀﾀﾀｯ

総帥「逃がすかぁっ！　部下たちよ、この三人を捕えるのだ！」

ワァッ！！！

総帥「あの眼鏡の小娘は逃がしてしまったが……お前たちは捕えることができた」

総帥「あの小娘が貴様らのブレインだということは分かっている」

総帥「さあ、あの小娘がどこにいるかを教えろ！」

男「誰がお前たちなんかに……」

不良「教えるかってんだよ！」

総帥「クックック、どうやら痛い目を見たいようだな……やれっ！」

部下「はっ！」

ﾊﾞｼｯ!

男「ぐうっ！」

部下「吐かんかぁっ！」

ﾋﾞｼｯ!

不良「ぐううっ……！」

総帥「吐くまで続けろ！」

総帥「水をかけろ！」

部下「はっ！」

ｻﾞﾊﾞｧｧｧｧｧｯ

男「ぶはっ、げぼっ！」

不良「この……クズ野郎どもが……！」

総帥「続けろ！」

ﾋﾞｼｯ!　ﾊﾞｼｯ!　ﾋﾞｼｯ!　ﾊﾞｼｯ!

総帥「なんだ？」

男「なぜお前たちは……駐輪場にちゃんと自転車を止めないんだ？」

男「なぜわざと自転車を浅く止めて、料金支払いから逃れようとするんだ？」

総帥「……」

総帥「逆に聞こう」

総帥「なぜ金を払わねばならん？」

男「……！？」

総帥「むしろ、駐輪スペース如きにちゃんと金を払ってる奴らがおかしいのだ！」

総帥「支払わなくていいものなら、払わずに済ませる！　それが人間のサガというものだ！」

男「違う！　人間は自分が恩を受けたら、ちゃんと料金を支払う生き物だ！」

不良「そうだぜ！　てめえらみたいなのは人間じゃなく、クズなんだよ！」

総帥「……鞭を強めに打てい！」

部下「はっ！」

ﾋﾞｼｯ!　ﾊﾞｼｯ!　ﾋﾞｼｯ!　ﾊﾞｼｯ!

部下「こいつら……一言も吐きません」

総帥「やむをえんな……もういい、処刑しろ」

部下「しかし、それでは残る小娘の居場所は——」

総帥「不正駐輪連合1万名をもってすれば、あんな小娘などすぐ捜し出せる！」

総帥「殺せ！！！」

部下「ははっ！」

男「生まれ変わっても……僕は自転車をカチャり続ける」

不良「俺もだ！」ﾆｯ

総帥「最期の最期まで忌々しい奴らだったな……処刑を開始せよ！」

部下「はっ！」

眼鏡娘「待ちなさい！」

眼鏡娘「お望み通り、来てやったわよ！」

総帥「フ……フハハハハ……！　これこそまさに飛んで火に入る夏の虫、というやつだ！」

眼鏡娘「なにをいってるの？」

眼鏡娘「もう……あなたの負けは確定してるのよ」

総帥「な、なにっ！？　——どういう意味だ！」

男「……」ﾆﾔｯ

不良「……」ﾆﾔｯ

眼鏡娘「じゃあ聞くけど——」

眼鏡娘「あなたの自転車……私たちがカチャった後、どうしたっけ？」

総帥「へ……？」

眼鏡娘「たしかずっと止めたままだった気がするけど……？」

総帥「あ……」

総帥「あああああああああああああ！！！！！」

総帥「ひいいいっ！　やっぱりロックされてるぅぅぅぅ！」ｶﾞﾁｬｶﾞﾁｬ

総帥「一体いくらになってるんだ！？」

機械『駐輪番号を入力してください』

総帥「あわわ……」ﾋﾟｯﾋﾟｯ

機械『表示された料金を投入して下さい』

16,800円

総帥「うわあああああああああああああああああああああああああああ！！！！！」

眼鏡娘「1時間100円なんてところに、七日間も止めてたからねえ……」

総帥「こんな大金……払えるわけがない……！」

男「だったら……二度とノー・カチャ駐輪しないと誓え」

男「そして、不正駐輪連合を解散するんだ」

眼鏡娘「そうしたら、私が機械を操作して、タダで自転車を出してあげるわ」

眼鏡娘「ここの管理人さんにも話はつけてるしね」

総帥「……分かりました」

総帥「今度からは……ちゃんとカチャってなるように自転車を止めます……」ｶﾞｸｯ

男（勝った……！）

こうして戦いは終わった——

男「ああ、大丈夫さ。自転車をカチャってたおかげで体は鍛えられてるからね」

不良「あんな鞭ぐらい屁でもねえぜ！」

男「不正駐輪連合は倒れたけど……ちゃんとカチャらない人が完全にいなくなったわけじゃない」

男「みんながちゃんとカチャる日が来るまで……僕たちも自転車をカチャり続けよう！」

不良「おうよ！」

眼鏡娘「さっそくだけど、あっちにカチャってない自転車があるわ！」

男「よーし……出発だ！」

〜おわり〜